BT剤をもう少し詳しく説明して下さい。
バチルス・チューリンゲンシス(BT)という細胞を利用した殺虫剤でアメリカでは既に30年以上使われています。BT菌は芽胞形成時に菌体の中に結晶性の殺虫性たん白を作ります。鱗翅目(チョウ・ガの仲間)害虫の幼虫がこの殺虫性たん白質を食下すると、アルカリ性の消化液で溶解され、さらにたん白分解酵素により殺虫力を示すたん白にまで分解され活性化されます。殺虫機作は次のように考えられています。先ず、活性化たん白が消化管(中腸)に存在する特定の結合部位に結合します。次いで結合した部位の細胞が破壊され、虫はマヒ状態になります。さらにその傷から、消化管内で芽胞から発芽したBT菌が体腔の中へ侵入感染し、虫は死亡します。死亡には2〜3日を要しますが、食下後2〜3時間で接触活動を停止しますので遅効的であっても被害は進みません。
BT剤の特徴は何ですか?
人畜に対する安全性が高い。
BT菌の殺虫性たん白はアルカリ性の消化液で溶解、さらにたん白分解酵素で分解され、殺虫効果が発現します。一方、哺乳類と昆虫では消化管中でのたん白の消化分解メカニズムが異なりますし、哺乳類では殺虫性たん白作用点が存在しないと考えられていること及び各種安全性試験の結果、人を含めた哺乳類への安全性が高いことが確認されます。
生態系に与える影響が少ない。
天敵や授分昆虫は、鱗翅目の幼虫の摂食行動とは異なり、葉を食べるのではなく吸汁や摂食性のため殺虫性たん白を消化管に取り組むことは極めて稀であり消化管に入った場合でも活性化されない場合や分解がさらに進んで解毒されてしまう場合が多いなどBT剤による悪影響は認められません。また、散布されたBT菌は植物体中、水中、土壌中といった環境では比較的早く消失することが明らかになっており、蓄積することはありません。
BT剤にも種類があるのですか?
BT菌には40種類以上の系統があり、そのほとんどが自然界から見つけられたものです。40種類以上の系統の中でもBT剤として実用化されている系統は限られており、クルスターキとアイザワイは主に鱗翅目害虫を対象にしています。欧米では他にも双翅目(ハエ・カの仲間)害虫を対象にしたイスラエレンシスや鞘翅目(コガネムシ・ハムシの仲間)害虫に有効なサンディエゴ、テネブリオニスなどの系統が実用化されています。BT菌は系統によって感受性が異なったり、同じ系統でも菌株によって殺虫活性が異なったりします。
BT剤は抵抗性がつかないのですか?
アメリカではBT剤は1961年から使用されていますが、野外での抵抗性事例はほとんどなく1985年に貯穀害虫ノシメマダラメイガで初めて抵抗性事例が報告されました。当初BT剤は抵抗性がつかないと考えられていましたが、日本でも1988年にコナガでのBT剤抵抗性が確認されています。抵抗性の発達は合成農薬に比べて遅いものの、抵抗性がつかないとは言えません。BT剤については殺虫メカニズムや抵抗性発現のメカニズムはまだ十分解明されていませんが、系統・菌株によって感受性や殺虫力が異なるように抵抗性の発現も系統によって差があるとされています。
抵抗性の発達と安定性
コナガを用いた淘汰試験により、BT剤における抵抗性発達速度は化学農薬に比べ遅く、かつ淘汰後の感受性回復も化学農薬に比べ速いことが明らかにされています。ごく一部の作物や実験系において抵抗性がコナガで認められた事例はありますが、高度抵抗性が実防除場面で発達した事例はまれで、抵抗性の発達程度も化学農薬に比べかなり低いレベルにあります。
メカニズム
下図に示すように、作用点である中腸上皮細胞膜上の殺虫性タンパク受容体の変化と減少により抵抗性が発達するものと考えられます。受容体はタンパクの種類ごとに異なりますので、抵抗性も殺虫性タンパクの種類ごとに発達するものと考えられます。
BT抵抗性のメカニズム
対策
抵抗性の発達レベルが低く、感受性の回復が速いことから、BT剤は各種害虫の抵抗性対策において重要な役割を果たします。BT剤の連用を避けるように作用性の異なる薬剤との体系防除を行うことにより、BT剤のみならず他剤の抵抗性も抑えることができます。
主なBT剤は、「IPM防除に適合した主な資材リスト」の「BT剤」を参照して下さい。